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東京家庭裁判所 平成6年(少)4464号 決定

少年 N・T(昭54.11.22生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、平成6年8月11日午前2時ころ、東京都足立区○○×丁目××番×号A方前路上において、同人所有の自転車1台(時価約4000円相当)を窃取したものである。

(法令の適用)

刑法235条

なお、平成6年少第4464号ぐ犯保護事件のぐ犯事実は、「少年は、中学校3年に在学し、平成6年4月5日、ぐ犯、窃盗保護事件により保護観察に付されたが、同年6月中旬ころから、従前と同様、怠学、夜遊び、無断外泊を繰り返すようになって、東京都江東区○○所在の不良仲間の自宅に泊まり込むなどし、保護者や教師、保護司らの再三の指導にも従わず、同年8月ころからは、家出を繰り返し、前記不良仲間と行動を共にしたり、その自宅に泊まり込み、さらには野宿をするなどして自由奔放な生活をしているもので、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄りつかないものであって、その性格又は環境に照らし、将来窃盗等の罪を犯すおそれがある。」との限度で認定することができるところ、上記認定の犯罪行為は、少年の上記ぐ犯性が現実化したものであることが認められるから、上記ぐ犯事実は、上記犯罪行為に吸収され、少年を保護処分に付する際の要保護性に関する事実として考慮するのが相当であるので、これを非行事実に掲げない。

(処遇の理由)

少年の行状は、上記認定のぐ犯事実のとおりであり、家出中に上記犯罪行為に及んだほか、不良仲間らとバイクを盗むなどしている。

少年は、主体性に乏しく、依存的であり、自分の気持ちを素直に表現することができず、家庭や学校において疎外感を強くし、不快な現状から逃れようとして無断外泊や家出を繰り返して不良交遊に浸り、さらには遊興志向を強めている。

少年の両親に対する反発は強く、その指導を受け入れる姿勢は極めて乏しい。父親は少年の指導に意欲も自信もなく、母親もこれまで熱心に指導してきたものの、現在では少年の指導に自信をなくしている。また、少年の指導をめぐって両親の緊張、軋轢も深刻になっている。

以上のような少年の性格、非行性、行動傾向、保護者の監護能力等に鑑みると、少年については、在宅による更生をはかることは困難であり、この際、初等少年院に収容保護して十分に内省を深めさせ、集団生活を通じて、適切な自己表現を学ばせるとともに、少年の疎外感を軽減させ、自律性や主体性を養い、あわせて教科教育を施すのが相当である。また、仮退院後の社会内処遇を円滑に行うため、両親が、少年の問題点について理解を深め、少年の指導について十分に意見を交換し、面会や通信等を通じて親子間の意思の疎通をはかるとともに、在籍中学校と円滑な連絡調整を行うことが必要である。

なお、少年は、自分なりに努力して取り組む力があること、在籍中学校は少年の受入れに積極的で、仮退院に備えて進路指導体制を整えることが期待できることなどを考慮し、少年に対して、比較的短期間の矯正教育(一般短期処遇課程)を施した上、引き続く社会内処遇により更生をはかるのが相当である。

そこで、別途一般短期処遇の勧告をするとともに、環境調整の措置を求めることとした。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川島利夫)

〔参考1〕ぐ犯送致事実

少年は、現在区立○○中学校3年に在籍中のものであるが、以前から家出、怠学、無断外泊、窃盗等をくり返しているものであり、夏休みに入ってから、再び家出をし、中学2年まで不良仲間であった知人の家に行き、バイク盗を行なうなど、自己中心的な生活をしていたもので、このまま放置すれば、再び家出等をくり返し、生活に困り窃盗等の犯罪を犯すおそれがきわめて大である。

〔参考2〕環境調整命令書

平成6年9月20日

東京保護観察所長殿

東京家庭裁判所

裁判官 川島利夫

少年の環境調整に関する措置について

氏名 N・T

年齢 14歳(昭和54年11月22日生)

職業 無職(中学生)

本籍 東京都台東区○○×丁目×番

住居 東京都北区○○×丁目×番×-××号

当裁判所は、平成6年9月20日、上記少年について、初等少年院(一般短期処遇課程)に送致する旨の決定をしましたが、少年は、平成7年3月中学校卒業を控えておりますところ、両親に対する反発が強く、家庭から遊離しつつあり、さらには少年の指導をめぐって両親の緊張、軋轢も深刻になっております。そこで、仮退院後の社会内処遇を円滑に行うため、環境調整の必要があると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記の措置を執られますよう要請します。なお、詳細については、東京少年鑑別所長作成の平成6年9月13日付け鑑別結果通知書及び当庁家庭裁判所調査官○○作成の平成6年9月16日付け少年調査票の各写しを参照してください。

両親が、少年の問題点について理解を深め、少年の指導について十分に意見を交換し、面会や通信等を通じて親子間の意思の疎通をはかるとともに、在籍中学校と円滑な連絡調整を行うことができるよう指導、援助すること

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